安産
安産のために必要なこと
お産を少しでも軽く済ませたい。多くの妊婦さんの願いだと思います。確かに出産という行為は重労働で、身体への負担も大きなものです。しかしその負担は人により個人差があります。安産の人もいれば難産の人もいます。
では、安産のために必要なことは何でしょう?また、安産の人と難産の人の違いは何でしょう?
一般的にいわれているのは骨盤の問題、運動習慣の有無、体重管理などでしょうか。そのどれも正解です。ただしこれらも含めて、安産において最も重要なことがあります。
それは『呼吸』です。
先に挙げた骨盤の問題、運動、体重管理などもすべて呼吸によりコントロールが可能です。
妊婦さんの呼吸
妊婦さんに多いのは、自分の身体やお腹の子を守ろうとする意識が強いあまり、過剰に防御反応を働かせているケースです。人間を含め、動物は何かに対する不安や恐怖があると、息を詰め、身を屈め、自分の身を守ろうとします。コレを防御反応といいます。
防御反応自体は動物の持つ本能的なもので、危険から身を守る上では重要な働きです。問題は過剰な防御反応。瞬間的に身を守ろうとこのような反応が出るのは良いのですが、過度な防衛意識が働くことにより、日常的に息を詰め、身を屈める姿勢を撮ってしまう妊婦さんは非常に多いのです。
息を詰めるという行為は「いきみ」につながります。また、身を屈めるという姿勢は子宮を圧迫することになります。こんなことが日常的に起きていれば、安産どころか妊娠を正常に保つことすら危ぶまれてしまいます。
そうです。安産、そして健やかな妊婦ライフを送る上で『呼吸』そしてそれに伴う『姿勢』は切っても切り離せない存在なのです。安産を迎えるためには、このような日常での呼吸や姿勢の取り方が最も重要であると私は考えます。
浅く詰めた息を整え、屈めた姿勢を伸ばしていくことで、赤ちゃんのベッドである子宮の居心地は良くなります。当然お母さんの身体の負担も軽減します。呼吸と姿勢の改善は、心理的な安心感ももたらします。過剰な不安や恐怖心も和らぎ、母子ともに理想的な心理状態で出産にのぞむことができます。
つまり、妊娠期間中を穏やかに過ごすことが安産にのぞむためにまず重要なことであり、穏やかな心理状態をつくるのが呼吸であり、姿勢なのです。
骨盤と呼吸
妊娠し、おなかの赤ちゃんが育ち出産が近づくにつれ骨盤は徐々に開き始め、産道が広がりやすいよう準備を始めます。骨盤はひと塊の骨で形成されているものではなく、腸骨、座骨、恥骨、仙骨という複数の骨が連結している構造体なのです。複数の骨によって形成されていることで重心のバランスを摂ったり衝撃吸収に一役買っていたりするのです。
そして出産の際に骨盤が開くのも骨盤がいくつかの関節によりつながっているからです。骨盤が開くために可動性が要求される関節は、腸骨と仙骨の間にある「仙腸関節」と左右の恥骨が正中で結合している「恥骨結合」と呼ばれる関節たちです。
これらの関節は重心のコントロールに関わるため、過剰な可動域は不安定につながります。そのため肩関節や股関節のような大きな可動域は有しません。通常は関節包や靭帯など周囲の組織で守られていて可動域を制限されています。
出産の際はこれらの関節包や靭帯が緩み、骨盤が開くようにつくられてはいるのですが、ここでこの骨盤を開くことに抵抗する組織があります。それが「筋肉」です。
筋肉は通常時の長さを記憶しており、通常時以上の伸展に対して反射的に縮める作用を持っています。この時に生まれる筋肉の緊張が出産前や出産の際、骨盤周囲や股関節周囲の痛みとなり、安産の妨げになることも多いのです。
ではそれらの筋肉が緩ければ良いのかというと、決してそうではありません。日常的に筋肉が緩ければ当然姿勢維持や動作にも支障を来たします。大事なのはそれらの筋肉を過剰に緊張させないことです。上にも書いた通り、筋肉の緊張の正体は過度な「不安」や「恐怖」であることが多いのです。そしてその不安や恐怖の裏には必ず浅い呼吸が存在しています。
安産にのぞむためには骨盤が緩いでもなくきついでもない状態にしておかなければならず、そのために必要なことは骨盤周囲の筋肉を過剰に緊張させないこと。
そして筋肉の過剰な緊張の裏には不安や恐怖による浅い呼吸があるため、呼吸をコントロールしてあげることにより、安産に向けた骨盤管理ができるということなのです。
運動と呼吸
安産のために運動をする。これは重要なことです。なぜ運動が重要なのかというと、上にも書いた通り、骨盤周囲の筋肉を使うことで刺激を入れてあげるためです。筋肉には伸び縮みする作用がありますが、使われない筋肉はこの長さを変えることはありません。日常的に伸び縮みに慣れていない筋肉が出産の際にだけ伸ばされたらどうなるでしょう?当然抵抗し、元の長さに戻そうとする力が働きます。これでは骨盤も産道もスムーズに開くことができません。
そのようなことがないために普段からウォーキングやヨガなどの運動を取り入れ、静止時には使われない筋肉を伸び縮みさせてあげることでより安産にも繋がりやすくなるということです。
ただし、運動さえしていれば安産の準備になるのかというと答えは「NO!」です。せっかく運動していても浅い呼吸や崩れた姿勢でいれば、筋肉には余計な緊張が加えられます。やはり筋肉の動きをスムーズにし、安産に向けた運動につなげるためには正しい呼吸と姿勢が必要なのです。
体重と呼吸
妊娠中はホルモンバランスの変化や自律神経の影響により、食欲や嗜好にも変化が出やすくなります。それに伴い体重の増減も起こりやすくなります。妊娠中は感情の起伏も激しくなることが多いため、食欲というよりも感情で食べてしまうといったケースも多く見られます。
感情も自律神経も自分でコントロールできるのは呼吸だけです。呼吸を整え平常心を保ち、自律神経を整えることで必要な食事の摂取量がわかり、体重のコントロールにもつながります。
また、体重が増えてしまった時、運動や食事制限が必要になります。上記の通りそのどちらも正しい呼吸があってはじめて成果が出るものです。そして脂肪の燃焼率も呼吸に影響を受けます。同じ運動や日常生活を送っていても、呼吸が浅い人よりも深く整った呼吸をしている人の方が、脂肪の燃焼率が高いことは言うまでもありません。
つまり体重の過度な増減を防ぐためにも、増えてしまった体重を減らすためにも、正しい呼吸とそれに伴った姿勢は重要なのです。
安産と呼吸
ここまでの文章を読んでいただければ出産と呼吸の関係性も何となくわかっていただけたのではないでしょうか?出産に至るまでの準備が安産には必要ということは言うまでもありませんが、やはりリラックスして臨めるかどうかが最も重要なことです。
リラックスとは心理的にも肉体的にも余計な緊張がない状態のことです。心理的な不安や恐怖、肉体的な筋肉の過緊張、ここまで書いてきたとおり、これらをコントロールできるのは『呼吸』だけです。
具体的な方法としてはラマーズ法などが有名ですが、大事なのはとにかく息を吐き出すこと。出産はある意味では赤ちゃんを排出する行為です。体内から何かを排出する際、息が詰まっていては詰めた息が排出の邪魔をします。もちろん「いきむ」際には息を詰める必要はありますが、それは出てくる直前の話。産道を下りてこようとする赤ちゃんを手助けできるのは息を吐くことです。
人は痛みがあると息を詰め身を屈め、防御姿勢をつくります。陣痛の際にその姿勢を取れば、身体の緊張を生むことになり、出てこようとする赤ちゃんの妨げにもなるし、痛みも留めることになります。陣痛を感じた時こそ息を吐き、その痛みを流してあげるイメージが必要です。
さらに言うと息を吐き出す際、産道に息を流し吐いた息でゆっくり赤ちゃんを下へ押し下げてあげるイメージを繰り返してあげると良いでしょう。心理的、肉体的なリラックス、陣痛のコントロール、産道を下りる赤ちゃんの後押し、これらすべてに呼吸は関わるのです。
つまり呼吸の意識なくして安産はあり得ないということです。
安産のための当院の施術
ここまで書いてきたとおり当院では適切な呼吸とそれに伴う適切な姿勢が安産につながると考えています。当院の施術ではまず息を詰めていること、歯を食いしばっていること、決まった筋肉を緊張させて動いていることに気付いていただきます。気付いた上で詰めた息を吐き出し、過緊張させている筋肉を緩和させ、縮んだ姿勢を伸ばしていきます。
こうして姿勢と呼吸が整うことで身体のバランスは良くなり、心理的バランスも整うことで抱えていた過度な恐怖心や不安感も処理しやすくなります。
更に骨格や筋肉、内臓、経絡など細かなバランスをチェックし、必要に応じて整えていきます。
つまり当院の施術では、基本的には患者さん自身が自分の身体の問題に気付き、自分でその問題の解決方法を身につけていただくことをメインの目的としています。