東京オリンピックのサポートに行ってきました

歴史の一幕に立ち会う

「歴史の一幕に立ち会う」正直、開催前はそんな発想からは程遠いところにいました。今大会は一年間の延期を経たのちの無観客での開催となりました。この決断に否定的な意見も決して少なくはありませんでした。私自身も二転三転する情報に振り回されましたし、開催されるまでは不安しかありませんでした。

しかしいざ大会が始まってみると、多くの選手の口から開催に対する感謝の言葉がありました。そして何よりその選手たちが力を発揮している姿は間違いなく輝いていましたし、私自身は言葉では言い表せないくらいの感動と勇気をもらいました。東京オリンピックが開催されたという事実があり、それに意味付けをするのは我々ひとり一人だとしたら、私自身は間違いなくこの開催には意味があったと思っています。

もちろん今後私たちはこの感染症の問題を無視するわけにはいきません。どのように向き合っていくかを考えなければなりません。ただ不謹慎かもしれませんが連日の感染症の報道を観て不安におびえるよりも、選手たちの人生をかけたパフォーマンスを観て感動をもらう方がどれだけ免疫力を高められるでしょう?どれだけ前向きになれたでしょう?東京オリンピックを終えた今、歴史の一幕に立ち会えたことを誇りに思います。

そんな状況下での開催ということもあり選手との接触も最小限に限られていたため、私たちの活動もかなりの制限を受けてのものとなりました。本来であればもっと選手のサポートに深く介入できたと思います。そこが残念なところではありますが、それが些細なことと思えるくらい間近で見る選手たちのパフォーマンスは感動的なものでした。

プールと各競技のレポート

私の担当は水泳競技。その中でも主に水球、アーティスティックスイミング、飛び込みのサポートを中心に活動させてもらいました。各種目競技会場と練習会場がそれぞれにあり、いろいろなプールを回らせていただきました。今回はそのプールと各競技のレポートをお話ししたいと思います。

東京アクアティクスセンター

まずは何と言ってもTACこと東京アクアティクスセンター。東京オリンピックのために作られたプールというだけあり、スケールの大きさが桁違い。あんな大きい水泳会場を観るのは初めてで最初はビビって言葉も出ませんでした。特に今回はオリンピック仕様ということで最上段のスタンドが仮設で設置してあったのでとにかく迫力がすごかったです。これで観客が入っていたらと思うと震えました。

このTACでは競泳、飛び込み、アーティスティックスイミングが行われました。私がこのプールを担当したときは飛び込みプールでの女子髙飛び込み予選と、50mプールでのアーティスティックスイミングデュエット決勝が行われていました。

髙飛び込みはとにかく間近で見ると迫力がすごいんです。飛び込んだ瞬間の水しぶきや音が採点の基準にもなるのですが、綺麗に入水できた時のしぶきの少なさや音のコンパクトさは観ていて本当に爽快でした。ただほんの少しでも入水角度を間違えば即刻怪我につながる競技でもあるので、見守る側も緊張感をもって臨みました。

同じ日の夜にアーティスティックスイミングデュエットの決勝が行われました。アーティスティックスイミングは決勝前にセレモニーが催されます。そのセレモニーがとにかく圧巻で、光と音で会場全体が包み込まれるんです。これには本当に感動しました。

日本は惜しくもメダルには届きませんでした。落ち込む吉田選手とそれを気遣うような乾選手が印象的でした。人生をかけて取り組んできたんですもんね。オリンピックのメダルの重さというものを改めて垣間見た気がしました。ちなみに練習のとき日本の井村コーチがご挨拶してくださいました。練習中の厳しさとは真逆ですごく優しい笑顔でした。今期で引退だそうですね。長年日本のアーティスティックスイミングをけん引されてきた方です。本当にお疲れさまでした。

東京アクアティクスセンター仮設プール

あまり知られていませんが、このTACの隣には練習用の仮設プールがあります。競泳用の50mプールとアーティスティックスイミング用の水深3mプールと。どちらも十分大会で使われそうなくらい立派なプールでした。来年の福岡世界水泳で使われるそうです。どうやって運ぶんでしょうね?

東京辰巳国際水泳場

そしてお馴染み(?)辰巳のプールにも行きました。正式名称は東京辰巳国際水泳場。これまで国内の主要大会の多くはここで開催されていました。私も学生時代はよくここで泳いだものです。非常に泳ぎやすいプールで好記録が出やすいと評判でした。

今回は水球会場。私の勤務用のシフトにはTWCとの表記が。TACはわかるけどTWCって何だろう?と最初はわかりませんでしたが、どうやらオリンピック中は「Tatsumi Waterpolo Center」なる名称で呼ばれるそうです。ちなみに「Waterpolo」とは英語で水球のことを言います。いやいやいや。それなら「TIP(Tatsumi International Pool)」のまま使えよ!と思いましたがそこはオリンピックということで黙っていました(笑)。

私が訪れた日は主に男子水球の準決勝が行われていました。準決勝第一試合はギリシャ対ハンガリー。第二試合はセルビア対スペイン。日本は残念ながらここまでは勝ち残れませんでした。私がプールサイドを担当する時間はちょうど第二試合が行われていました。両国の国歌が演奏され(私たちも起立して聞きます)、厳粛なムードの中試合が始まります。準決勝ということもあり白熱した試合を展開していました。プレイも激しく、審判の笛が何度も鳴り響いていました。我々もいつけが人が出てもおかしくない状況だったので緊張して見守っていました。結果第二試合の勝者は1点差でセルビアでしたが、残り3分間の攻防はどちらが勝ってもおかしくないくらいのシーソーゲームを繰り広げていました。

今まで水球の試合はきちんと観たことがありませんでしたが、今回本当に面白くて一気に水球が好きになっちゃいました。第一試合の勝者はギリシャで、2日後の決勝はセルビア対ギリシャというカードになりました。実はハンガリーは水球が国技で日本でいう柔道のようなもの。そしてスペインは水球のプロリーグがあり、これまた盛んな国なのです。その両国が負けるのは番狂わせなのかと思っていましたが、確かにギリシャに関しては番狂わせでしたが実はセルビアは前回のオリンピックで優勝しているそうです。今回もセルビアが優勝しました。

東京辰巳国際水泳場仮設プール

そしてこの辰巳のプールの隣にも水球練習用の仮設プールが設置されていました。こちらも試合が十分できるほど立派でしたが、上に京葉線の線路があるため電車が通るたびに轟音が鳴り響いていました。確かに仮設の施設に防音設備は入れませんよね。

東京体育館

続いては東京体育館です。こちらは男子水球の練習用プールとして使われていました。「ん?東京体育館のプール?」と思われました?もしかしたら東京体育館にプールがあるということを知らない方も多いかもしれません。そう。あの卓球の熱戦が繰り広げられていたメインアリーナの隣に、ひっそりと東京体育館のプールは存在しているのです。

実はこのプールには個人的に思い入れがありまして。都内の高校に通う私が2年生のとき現在の東京体育館プールが完成しました。当時はまだ辰巳もなかったので50mの室内プールというのが珍しく、やたらテンションが上がりました。それまで都の水泳大会といえば大体神宮プールか立川の昭和記念公園プール。どちらも屋外の50m。立川なんかは10コースあって予選10位まで決勝に残れるという魅力はあったんですが、とにかく遠いくて。それがもう千駄ヶ谷の駅前ですよ。嬉しかったなー。

新しくきれいな室内プールは嬉しかったんですが問題もありました。それは狭いということ。プールは立派なんですよ。メインが50m×8コース。サブも25m×6コース。泳ぎやすい。申し分ないんだけど建物自体があまり大きくないのでスタンドにしろその他のスペースにしろ少なくて。そこで都内の水泳部が全部集まるんですから場所取り争いが熾烈を極めていました。

このプールのプールサイドには旧東京体育館の栄光の5コースのコース台が飾られています。日本人による世界記録が4回ほど生まれているコースだそうで。それを残して飾るなんて粋ですよね。そんなところも好きでした。

思い出話が長くなってすみません。こちらでは男子水球選手の練習が間近で見ることができました。とても巻き足で浮いているとは思えないくらい安定した身体。シュートのときに水面からへそくらいまで飛び出す上半身。キーパーがボールをはじく音。そんなパフォーマンスが目の前で繰り広げられていました。もちろんけが人には十分注意しながら。

世界のトップ選手がプレイする姿、そして練習用とはいえ堂々たる姿を見せていた東京体育館プールの勇姿。これには特別な感情がどうしても生まれてしまいました。TACのような華やかさはもちろんなかったけど、いぶし銀という感じで存在していたその姿は本当にイケていました。たとえるならフリーザやベジータが出てきた後の天津飯という感じでしょうか。(ドラゴンボールを知らない方、すみません…。)

さらに精進してまいります

そんな感じで本当に楽しくそして真剣にさまざまな競技、さまざまな選手のパフォーマンスを間近で見させていただくことができました。なかなか体験できることではありません。まさに歴史の一幕に立ち会うことができたと思っています。私のわがままで院の受付時間を制限させていただき、多くの方にご迷惑をおかけいたしました。誠に申し訳ございませんでした。この体験をもとにこれからさらに精進してまいりますので今後ともどうぞよろしくお願いいたします。